株式会社建築資料研究社(JAD理事)
稲垣 信幸 様

2024年3月8日、御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにてセミナー「人生100年時代を楽しむ学びと働き方」を開催いたしました。 本講演会は、一般社団法人全国産業人能力開発団体連合会(以下、JAD)の2024年度優良講座優秀者表彰式内にて2024年度第3回能力開発カレッジセミナーとして行われました。今回は、株式会社建築資料研究社 稲垣信幸様 をお招きし、学びと働き方についてお話を伺いました。
はじめに
ただいまご紹介に預かりました株式会社建築資料研究社・日建学院の稲垣と申します。
どうぞよろしくお願いいたします。
本日は表彰者の皆様お運びいただきまして、誠にありがとうございます。
本日は人生100年時代を楽しむ学びと働き方というテーマで、お話をさせていただきます。
私たちは今、人生100年時代と呼ばれる時代を生きております。平均寿命が延びて、定年後も長く会社と社会に関わり続けることが当たり前になりつつあります。
しかしそれは決して不安なことではなく、新しい可能性に満ちた時代でもあります。
本日は学びと働き方をテーマに、これからの人生をどう楽しみ、どう充実させていくかを皆様と一緒に考えてまいりたいと思っております。
簡単に私どもの会社についてご紹介させていただきます。
株式会社建築資料研究社、日建学院と申します。日建学院は建築士や宅地建物取引士などの国家資格の受験対策講座を全国47都道府県の教室で開講しております。
加えて国や各都道府県から公的職業訓練を受託し、介護・パソコン・建築CADなどの分野で職業訓練を実施しております。
私も職業訓練の事業に携わっておりまして、最近の職業訓練では、50代から60代の訓練生の方が増えてきており、高齢化社会の進展を私自身も肌で実感しております。私も50代半ばとなりまして、これからの学びや働き方について少し深く考えるようになったことが本日のテーマを選んだきっかけです。
本日は会社で働く場合の定年に関する法令やその背景、さらに年を重ねた自分の学び方や働き方について整理をしてみました。
学びを充実させるための学習方法や公的制度などもピックアップし、人生100年時代を楽しみながら可能性を広げていくことについて、皆様と共に探っていければと思っております。
人生100年時代の働き方 定年後の新しい働き方の可能性
会社に勤めておりますと、いつか定年を迎えます。しかし近年では、高齢者の労働市場への参加率が上昇しており、定年後のキャリアはもはや特別なものではなく、現実的な選択肢となっております。こうした社会の変化を受けて定年後も働き続ける選択肢が増え、多様な働き方が可能となっております。
こうした動きを支える制度の1つとして70歳定年法というものがあります。その概要と背景について詳しく見ていきましょう。
2021年度に施行されました改正高年齢者雇用安定法についてご存知でしょうか。
いわゆる70歳定年法と呼ばれるもので、企業に対して高齢者の雇用機会を70歳まで確保する努力義務が求められるようになりました。
70歳定年法についてその背景や目的、ポイントなどを見てまいります。
70歳定年法の背景について、急速な少子化に伴う労働人口の減少がございます。高年齢化の推移と将来推計によると、2010年以降、15~64歳の人口は減少傾向にあります。しかし、65歳以上の高齢化率は上昇すると考えられています。
70歳定年法の目的の1つ目は高年齢者の活躍の場の確保です。高年齢者の身体機能については、2018年には男女とも65歳以上のいずれの年齢階級においても、20年前の水準を超えているなど、高年齢者の若返りが確認されています。
70歳定年法の目的の2つ目は働く意欲がある高年齢者の活躍の場を整備することです。収入を伴う就業希望年齢として、全体の約2割が「働けるうちはいつまでも」と回答しており、約4割が65歳を超えて就業することを希望しています。
70歳定年法の目的の3つ目は高齢者の就業状況です。2021年の高齢者の就業者数は2004年以降、18年連続で前年に比べ増加し、909万人と過去最多となっています。
70歳定年法のポイントについて見てまいります。現在70歳定年法に関する取り組みは企業への努力義務に留まっておりますが、これまでの制度改正の流れを考慮しますと、今後義務化へ移行する可能性も視野に入ってくると考えられます。そのため、高齢者が収入を伴う働き方を選びやすい環境整備が一層進むことが期待されます。
何歳からでも輝ける!年齢を超えて広がる可能性
介護職や建設業界の施工管理職などを始め、恒常的に人手不足の業界は年齢を問わず多くの人材が求められております。
長く働ける制度が整備されることは高齢者にとってだけでなく、現役世代が新たな転職先としてこうした業界に注目するきっかけにもなり得ます。
人手不足の顕著な業界の一例としまして、医療・福祉業、建設業、運輸業、情報サービス、旅館・ホテル業、飲食業、警備業、製造業などが挙げられます。
このような法改正は高齢者の就労環境の整備にとまらず、労働者全体の生き方や働き方にも影響を及ぼす可能性があると思われます。
どのように働くか、何を学ぶか
どのように働くか
人生100年時代において、定年後の働き方を考える際には「自分の得意分野をどう活かすか」は重要となります。高齢になっても働き続ける理由は人それぞれ異なり、報酬を重視する人、やりがいや社会とのつながりを大切にする人もいます。自身の価値観や状況に応じて、適した働き方を見つけることが大切と言えます。
それではどのように働くかの3つのポイントについて、見てまいります。
1つ目のポイントはこれまでのスキルを活かす働き方です。企業での経験を活かし、再雇用や再就職を選ぶ、PCスキルがある人はパソコン教室の講師として活躍する、介護や家事の経験を活かし、家事代行やベビーシッターとして働く等ございます。
2つ目のポイントは新たな働き方に挑戦することです。定年後に新しいスキルを習得し、異業種へ転職、副業やフリーランスとして柔軟な働き方を選択、趣味を活かして仕事にする(観光ガイド、手作り商品の販売など)等ございます。
3つ目のポイントは働く時間とライフスタイルを調整することです。
健康状態や家族の状況に合わせて、短時間勤務や在宅勤務を選ぶ、週数回のアルバイトやボランティア活動で社会参加を続ける等ございます。
何を学ぶか
定年後も充実した仕事を続けるためには、学び続けることが不可欠と言えます。
新しい働き方に挑戦する場合やこれまでのスキルを活かすためには、継続的な学習が求められます。
それでは何を学ぶかの3つのポイントについて、見てまいります。
1つ目のポイントは現在のスキルを深めることです。企業研修やオンライン講座を活用して最新の技術や知識を習得、資格取得を目指し、専門性を高める(例:ファイナンシャルプランナー、介護資格など)等ございます。
2つ目のポイントは新しい分野に挑戦することです。AIやデジタル技術など、今後の仕事に役立つ分野を学ぶ、語学学習を通じて国際的な仕事に挑戦等ございます。
3つ目のポイントは人脈を広げるための学びです。 異業種交流会やセミナーに参加し、仕事の選択肢を増やす、SNSやブログを活用し、情報発信やネットワーキングを行う等ございます。
高齢者の働き方は体力や知力、経験など個々の特性によって異なります。定年後の働き方を考える際に大切なのは、自分に合った働き方を見つけることです。これまで培ったスキルを活かすか、新しい挑戦をするかを明確にし、自分らしい働き方を選ぶことが重要と言えます。
そのため、学び続けることは必要となり、継続的なスキルアップで自分らしく働き続ける準備を進めることも重要かと言えます。これまでの考察により多様なニーズに対応した働き方は、少しずつ広がりを見せていると考えられます。
再出発のための学び直し
年齢を重ねた後でも、新しいスキルを学ぶことで活躍できる分野が広がります。
学び直しによるキャリア再構築の具体例としては公的職業訓練、民間のスキルアップ講座などが挙げられます。公的職業訓練とは就職のため実践的かつ職業的なスキルを身につけるための教育プログラムで、キャリアアップやキャリアチェンジを目指す個人にとって重要な役割を果たします。特に近年のように仕事や働き方が多様化している社会において、こうした職業訓練の価値はますます高まっています。
講演者プロフィール
2000年8月 株式会社建築資料研究社 和歌山支店 入社
2012年3月 株式会社建築資料研究社 第二日建事業部 係長
2018年10月 株式会社建築資料研究社 雇用支援事業部 課長
2021年10月 株式会社建築資料研究社 雇用支援事業部 次長