清水
さくらインターネットの清水と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。こちらにロゴがありますが、『さぶりこ』というものが私たちの働き方を総称する名前で付けているものになりまして、これも社内で公募をして社員から出てきたものを採用して働き方の総称ということで使っております。
今日はこのお話をメインにしながら、さくらインターネットの働き方と文化、制度、風土というところのお話をさせていただきたいと思っております。
本日お話したいことは3点でして、柔軟な働き方の実現に向けて取り組んだ目的、目指していること、
パラレルキャリアというキーワードでどんな事例があるのかというご紹介と、そこから見えてきたこと、課題もありますので、そちらもお伝えできればと思っております。一企業の事例になりますので、皆さんの会社にそのまま当てはまるものでもないと思いますし、きれいなことだけではなくて、裏側はドロドロとしたりしているものとか苦労もありますが、20分でまとめるときれいなところのご紹介で終わってしまう可能性もあるのですが、何か気になることがあれば、その後でご質問いただければと思います。
私の紹介ですが、清水能子と申します。本業はさくらインターネットというITの会社の人事でマネージャーをしておりますが、個人的なパラレルキャリアの活動としては、週末ワークショップデザイナーという形で友人たちとワークショップをやったりしております。
会社のプロフィールも少しご紹介させて頂きたいと思います。さくらインターネット、21年目の会社になります。2015年11月に東証1部に指定替えをしているのですけれども、この上場しているというところも管理する側にとってはちゃんとしっかり管理しなければいけないんじゃないかという固定観念を生むものなのですが、ここは乗り越えてきたという話もさせていただければと思っています。従業員数は単体で400名くらいで、この柔軟な働き方の対象となってくる人数は大体400人規模だとイメージしていただければと思います。社長ですけれども、創業者でありエンジニアであることがポイントであると思います。学生時代に起業しておりますので、まだ年齢としては39歳と若い社長です。コーポレートアイデンティティーをいうものを昨年の年末に明文化しまして、「やりたいことをできるに変える」というメッセージを社内と社外にもお伝えするようにしています。これは、「お客様がやりたいことを私たちのサービスや知識ナレッジなどでできるに変えていきたい」ということと同時に、そのためには「社員自身が一人ひとり自分のやりたいことが実現できる会社にしていけるといいよね」というメッセージにも
なっています。
さくらインターネットを今日初めて見たという方もいらっしゃると思うので、簡単にご紹介させていただきます。BtoCの事業というよりは、BtoB寄りの事業です。PONANZA、最近電脳戦で、将棋で人に勝ったAIということで少し話題を集めましたけれども、このPONANZAというシステムも弊社のサーバー上で動いています。お客様がデータセンターの中にサーバを預けてシステムを動かし、それをインターネット上に配信する、その部分を担っている会社となります。一貫して自社にこだわっているところは、柔軟な働きやすさの導入においてはやりやすかったのかなと思います。
少し歴史的なところのご紹介ですけれども、売上としては一応右肩上がりですが、途中2008年リーマンショック以降伸び悩んだ時期が長くありました。その時代に関しては社員数の伸びというのも極力抑えていました。個人的に一番気になったのは、2015年に何があったかということですね。改めて振返りましてこの2015年のポイント、ここが何か最近の急カーブのターニングポイントになっていそうだぞということと、その後に「さぶりこ」という働き方をまとめて概念化してリリースするということをしたので、その辺り少し紹介したいと思います。
2015年に何が起きていたのかということですが、外部環境としては、皆さんも耳にされたことがあると思いますが、IOTとか人工知能AIと言われるものや、機械学習ディープラーニングというインターネット上の新しいトレンドがあります。弊社はインターネットを利用してデータ配信をしていくお客様を支援している会社になりますので、ここのトレンドは売り上げに影響します。リーマンショック以降の業績が伸び悩んでいる時期が長くなりにつれて、どうにかしなければいけないという危機感が経営の中に高まりまして、非連続の成長を目指すことを明言し、それまで掲げていた目標より随分高い目標が明示されました。それをするにも今のリソースだけではもちろん達成できないということで、人的余裕を作ることも公約したというようなことがこの2015年に起こっておりました。
もう一つですね、社長が2015年にクロス2015というエンジニア1000人くらい集まったイベントがありまして、そこで「エンジニアの幸せな働き方」という講演をした時に、働きやすさと働きがいについて話をしたのですね。具体的に言うと皆さんが感じるモチベーションはこういうところにありますよねといくつか例示をした上で、これを分類すると働きやすさと働きがいに分けられそうだと。青く塗っている方が働きやすさですが、働きやすさは会社が整えるものだけれども、働きがいは個人がそれぞれ自分で追求していくものだというようなお話です。それが結構エンジニアの方にうけまして、インターネットの記事なりました。社長が社内でこれを社員に向けて言ったとか、人事に働きやすさを整えなさいと言ったわけではなく、実は私たちはインターネットでこれを知りました。これを知った時は結構な衝撃を受けまして、働きやすさを整える原動力になったというちょっとした事件でした。この働きやすさと働きがいについては、その後社内でも折に触れて持ち出しています。
また人事ポリシーを決めるワークショップを経営層と一部の人事メンバーとで一緒にやりました。先程の働きやすさを整えていかなければいけないとなった時に、どんな基準で、何を目指して働きやすさを整えるといいのか、単純に働きやすさを整えればいいのかというとそうではないだろうなど、いろんな議論をするうちに、人事だけで進めるのは難しいということで、経営も巻き込んで人事ポリシーを決めるワークショップをしました。具体的には、切り口を25個くらい準備して、その中から弊社にとって重要だと思うものを6個に絞り込んで議論したんですけれども、そのうちの5個については色々意見が分かれたのですが、性善説に立つというところだけはその場にいた全員が、さくらインターネットはこれだよねということで合意ができました。私たち人事としては、性善説に立って働きやすさを考えるという指針を得ることができました。
先程から申し上げている「さぶりこ」とは、Sakura Business and Life Co-creation の頭文字をとっていまして、会社で働くこととプライベートは分断されたものではなくて、お互いに影響し合っていい人生を歩いていけるようにという思いで働き方を概念化したものになっています。
実際には7つの施策をパッケージ化しています。時間に関するものと場所に関するものと 所属に関するものになります。一つ一つは各社さんがやっていらっしゃることとほぼ同じようなことかなと思うのですが、これを出してきた裏側で私たちが考えてきたことですとか、運用上気をつけていることを
お伝えできたらいいのかなと思いまとめました。制度化する時に気を付けたことは、先程の人事ポリシーからくる性善説に立つということ。ここをぶらさないということ。最悪のケースを想定して、それを制度に盛り込むということをしなくなりました。何かことが起こったら、起こった時に対処できる自分たちになろうというような方向に考えをシフトすることが出来たと思います。
あと制度より風土ということもあります。人事をやっているとどうしても制度にしたくなりがちなのですが、制度化することで伝えたいメッセージがあるのであれば制度にしなさいと、社長からもよく言われまして、私たちもそこをすごく気を付けています。具体例としまして、まさにパラレルキャリアがここに当てはまると思っておりまして、当社も例にもれず就業規則では副業はNGだったのですが、ただし上司の許可があえればOKだというような玉虫色の就業規則になっていたのですね。特に就業規則を変更しなくても副業ができる状態ではあったのですが、ここに一文あることによって、パラレルキャリアとか副業とか、起業とか、チャレンジするモチベーションにつながらないケースがあるのであれば、メッセージとして外しましょうということになりました。
実際に「さぶりこ」をリリースした後運用上気を付けていることは、どうしても働きやすい環境になると自己判断の裁量が増えていくので、ゆるくなっていったりするので、パフォーマンスが上がっていることが優先だよとか、業務が優先ですよということは伝えています。また、パラレルキャリアとかコワーキングスペースを使う時はコンプライアンスが重要になりますので、コンプライアンス遵守、徹底も大切です。私たち人事が特に気を付けているのは目的の部分でして、制度をリリースするとそれを使ってほしくなりますが、「さぶりこ」を使うことが目的ではなくて、これを使ってよりパフォーマンスを上げるとか、プライベートを充実させるために仕事とうまくバランスを取っていくとか、それぞれ目的はその先にあるということを忘れないようにするということを、気を付けています。
振り返ると、制度化をするときも運用しているときも、対話を重視してきました。制度化する時は社員との対話、経営層との対話を意識しました。また運用上は、リリースした後も社員に活用事例を聞いたり、使い方の相談を受けた時は制度に照らし合わせてできるできないを判断するのではなく、何がしたいのかという根本のところを聞きながら対話をするように心がけています。

今日のテーマがパラレルキャリアですので、パラレルキャリアを切り出してお伝えしますと、パラレルキャリアで目的としているところは3つです。越境学習による個人の成長とか、イノベーションに期待するところは色々な会社さんがおしゃっているところかと思いますし、弊社も目指しているところになります。当社の特徴と思うところは、チャレンジのハードルを下げるという考え方です。特に、社長に起業のチャレンジを促進していきたいという思いがありまして、社長自身が学生時代に起業していますし、スタートアップの会社をよく見ていることもあって、起業して一発で成功するケースは少ないけれども、何回もチャレンジしているうちに成功の確率が高まっていくものだ、という持論を持っています。起業するチャレンジを促進するために会社としてできることとしては、会社に所属することで起業する際の経済的リスクが軽減され、チャレンジもしやすくなるだろうということで、パレレルキャリアを推進しているという、そんな思いがこもったものになっています。
続きましてパラレルキャリアの事例のご紹介になります。いろんな事例はあるんですけれども、特徴的なものを3つ持ってきました。東京でエンジニアをしている者が、実家が富山にあって兼業農家である。
その兼業農家を手伝っているという例です。この方が柔軟な働きやすさというところで重視していることは、時間の融通がきくことでして、新幹線で富山はすぐですので、その移動の時間を休暇にすることがもったいないということで、朝一で移動して、フレックスを使って休暇を使わずに勤務しています。また、農業は天候に左右されますので、富山にいても雨が降った日はちゃんと仕事がしたい、ということでリモートワークで仕事をされています。そういう掛け合わせで使っている例になります。
もう一つ人事で私の部下になりますが、メンタルヘルスの担当者が社外の方向けのピアカウンセラーという形でキャリアカウンセリングをしているという例があります。自分自身が会社で得た労働法等の知識がピアカウンセリングをする時に役に立ったりとか、難しい環境にいる方とお話をする経験が会社の中での対応にも活かされたりということで、パラレルキャリアのよい事例と思っています。三つ目ですけれど、新卒で入ってきたエンジニアが、今国の研究員を嘱託で受けているという例があります。彼に関してはこの制度がなかったら弊社には入社していなかったかもしれません。
また、先程も石山先生のお話にありましたように、パラレルキャリアは何も副業だけでなくて、介護や育児もステークホルダー、いろんな関係者の方がいらっしゃって、その中でうまくやっていかなければいけないとか、あと学びの場というのもパラレルキャリアになるよねとか、あとは地域活動、マンションの理事会などの利害関係が一致しない方々の中でうまく合意をとっていかなければいけないというようなものはパラレルキャリアだなと思っています。何気なくそういう活動に参加するのではなくて、意識して自分の人生をうまく前向きに創っていきましょうというメッセージを込めています。
風土作りのお話ですけれども、制度より風土ということでやっているのですが、風土をどうやって浸透させていくのかということは非常に難しい問題だと思っています。私どもがやってきたことを振り返ってみました。最初からデザインした訳ではないですが、トップからのインプットとしては、社長が意欲的ということもあって、社長自らが発信する機会は比較的多いです。また、アウトプットの場は大事だったなと思っていまして、社員と対話するワークショップをやったり、上司と部下の1on1を定例化して、そこで働き方の話もできるようにしています。また「さぶりこ」という名称を使うことで日常にインストールしやすくなったと感じています。残業しないで早く帰ってくださいと言うのではなく、「さぶりこ」を使って早く帰ろうというと、ちょっと主体性が高まるというか、良いことをしている気分になるというか、そういう雰囲気を作ることは重要だと感じています。
成果の話ですが、ここに関してはまだ半年くらいでして、成果として皆さんにお伝えできることは無いのですが、成果が出るまでには時間がかかることを許容した上で、未来を信じてやっているという段階になります。具体的に数字として体感できたというのは新卒採用の応募数が昨年と比べると増えました。学生が働き方に敏感になっているということもありますし、弊社がそれをわかりやすく打ち出せていたということかと思います。
見えてきた課題、本当に色々ありまして、一番は業務の事情や家庭の事情で使いたいけれど「さぶりこ」を使えない方がいるということ、そして、働きがいの追求をまだ個人任せにしてしまっている部分があります。ここは今後人事制度と絡めて働きがいですとか、生産性ですとかそういったキーワードで取り組んでいきたいなと考えている部分であります。20分というお時間でしたので駆け足でしたけれども、発表をこれで終わらせて頂きたいと思います。どうもありがとうございました。