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【厚生労働省セミナー】
教育事業者へのナレッジ

講演録【石山恒貴&AGC株式会社】|JAD

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社内に繋がりを生み出す”サードプレイス”とは
~AGCの実例と今後の発展~


講師:法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴 様
   AGC株式会社 人事部 今市 明生 様
  
(2019年8月掲載)

2019年5月29日(水)、日本経済新聞社・日経BP社主催による「Human Capital2019」にて、セミナー「社内に繋がりを生み出す“サードプレイス”とは~AGCの実例と今後の発展~」を開催しました。 法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴様、AGC株式会社 人事部 今市 明生 様にご登壇頂き、前半は石山先生・今市様それぞれの講演、後半は石山様が今市様に質問する形で、質疑応答形式のディスカッションを行いました。


人と人との繋がりを生む「サードプレイス」

石山
只今ご紹介預かりました法政大学の石山と申します。本日は宜しくお願いいたします。 今日ですが「社内のサードプレイス」ということでそもそもサードプレイスとは何かという話を私の方から10分ほどお話させて頂きます。そのあとAGC様の取り組みが非常にユニークで素晴らしいと思いますので、こちらをAGCの今市様から20分お話頂きそのあと私と今市様との間で質疑を進めさせていただき40分という形で進めさせて頂きます。
簡単に自己紹介させて頂きますと、私は法政大学の政策創造研究科という社会人大学院で教員をしておりまして、いらっしゃっているのは20代から70代までの社会人の方なんですね。そういった場もいわゆるサードプレイスのような楽しい場なのでそのあたりも含めてお話をさせていただきます。

そもそも「社内のサードプレイス」というものですが、これの目的となるところは組織開発ということで、そもそも組織開発とは外から誰かコンサルのような方が来たり上からどーんとやるということだけではなくて、基本的には当事者の皆さんが自分たちで何かを変えたいということだ思うんです。 そうしますと今日のお話というのは正にこの組織開発ということにピッタリということだと思うんです。 ただ組織開発というものが会社の中の人たちがそれぞれやろうと思ってもどうしてもトップダウンで、やらされ感満載になるのはよくあるわけですが、そうならないために必要なことは何かといいますと自己組織化ということだと言われているんですね。自己組織化って人間の体を考えてみるといいと思いますが、例えば指に怪我をして治るときに、指の細胞にいちいち命令して治せと言っているわけではなくて、細胞が勝手に自主的に主体的に直してくれるわけですよね。そうすると実は何か会社の中も、いちいちトップの人とか誰かがコントロールしてすべてをやるわけではなくて、ある意味コントロールを手放して、それぞれの部署やそれぞれの組織や人が主体的に動いてもらわないといけないわけです。こういうのを自己組織化と言いまして、そのためには例えばここに書いてあるようなOST(open space technology)のような、みんなが意見を出し合う仕組みが有効と言われていますが、今日の社内のサードプレイスというのはそういった仕組みに極めて似た内容ということなんですね。

サードプレイスとは何かといいますと、オルデンバーグという人が言い出したことで、職場でも家でもない第3のとても居心地の良い場所というのをサードプレイスというんですね。やはり我々はそういう憩いのある温もりのある場所がいいねということで、例えばフランスのカフェですとか日本でいうと地元の居酒屋みたいなものなんですが、そこだと皆が安心して思ったことをいろいろと話せるということなんですね。では今日のテーマのような「社内のサードプレイス」というと、職場でも家でもないからサードプレイスなのに、会社の中の職場にあるから、そもそも矛盾している講演ではないか、という意見があると思います。そこはちょっと目をつむっていただいて、会社の中にあたかも第3の居心地の良い場所があればいいねというお話なんですね。

サードプレイスの種類を少し整理してみるとこうなると思うんです。まずいろんな場というのは義務的に参加する場と自発的に参加する場があるという軸があります。 もう一つは癒しと憩いを求める場と目的がある場があるという軸があります。例えばコーヒーチェーン店のような一人でも憩いを求められるというサードプレイスは、マイプレイス型と整理できます。
一方、オルデンバーグが言ったような従来的なサードプレイスって社交的な交流が中心だったわけです。これは、社交交流型サードプレイスと整理できます。そのほかに、義務的に行かなくてはいけないところもあって、自治会とか消防団とかそういうものもあるわけですが、これはサードプレイスとは別の種類のコミュニティです。今日お話する「社内のサードプレイス」とは、自発的に参加するけれど目的があって参加して、例えば読書会とかNPOとかで、そこに参加すると目的を達成しようとすることが楽しいというものであり、目的交流型サードプレイスと整理できます。

こういったものが会社の中で実現できるかということですが、なぜこれが良いかとい言いますと、会社の中では地位とか役割とかあるいは年齢とかでいろいろ自由にモノが言えなかったりしますが、カフェみたいなところに来て、なんとか部長という風にかしこまってもしょうがないので、だからこそカフェとかに行ったらあまりそういう話はしないはずなんですよね。そう考えると自由闊達にものが言えると非常に良いねということで、これを社内に意図的に作ってはどうかというお話なんです。

議論というのは基本的にAさんとBさんがいたら、Aさんは私の考えの方がBさんより正しいから何としてもこれを打ち負かしてやろうというのが議論だとすれば、対話というのは皆いろいろ違った意見があるけれど皆違ってそれでも良い、ただその違った意見というのをそれぞれ聞いて、それぞれ乗っかって新しいものを作ろうということなんですね。そうするとむしろ対話の方が非常に新しい知的な創造が起こりやすいということで、これはやっぱり年齢や役職や形式ばったものにとらわれずにもっと自由に話しましょうという、サードプレイスが重要な機能を果たすのではないかということです。

そう考えると社内にサードプレイスを置く価値というのは、自由に知識創造ができる、でもそこには専門性を持った人間が会社の中で自由に交流できる、例えばそれは同じ部署だけで固まるのではなくいろいろな部署の人が自発的にコミュニケーションできる。さらに、いつもより多様で異なった人がいるから、単に権力にものを言わせて自分は課長だから部長だからというリーダーシップを発揮しても効かないので、むしろ皆を勇気づける、或いはそこで違った意見があったら、それを聞いてそれに乗って新しいものを生み出して行くというリーダーシップが培われるという意義があると思います。

しかし皆さんは半信半疑で、いいことを言っているけれど、そんなサードプレイスみたいなものをどうやって作るのかと、いいたいことは分かったけれどそんなことあり得ないよね、と思っているかもしれませんが、ご安心ください。これからAGCさんが長い歴史をかけて作られた実例をご紹介いたしますので、是非そこからいろいろとご参考になるものをくみ取って頂ければと思います。ではさっそくAGCさんのお話聞かせていただきたいとおもいます。

今市さんよろしくお願いいたします。

「サードプレイス」を社内で実践。その道のりと効果とは?


今市
石山先生どうもありがとうございます。AGC人事部の今市と申します。本日は弊社のつたない制度なのですが「社内に繋がりを生み出すサードプレイスとは~AGCの実例~」ということでご紹介させて頂きます。今日お話します事はAGCで制度として行っておりますスキルマップとCNAという活動が土台となっていますのでこれをまずお話させていただいて、そのあとCNAがいかにしてサードプレイスを獲得してきたかという歴史のようなものをお話し、最後に実際どんなことをやっているかということをお話したいと思います。

では早速ですが、まずスキルマップという制度についてです。これは何かといいますと個人の保有する技術、技能を集めてカテゴリー別に見える化したものです。会社の組織は縦割りになっており、そこに技術、技能をカテゴリー別に40のスキルとして分類し横串として通しているそういったものになります。このカテゴリー別に社員に登録をしてもらって約8,000名強が登録していますが、3つの目的に沿って活動をして使っていくということをやっています。

一つ目が計画的な採用をしていこうということで、あるカテゴリ―ではこういう人が必要だよねということで最適人材を確保していく。二番目としまして人材探索をしていく。「こういうことができる人はどこにいるの?」というのを探すときに使います。三つ目としまして今ご紹介のあったサードプレイス的な活動をしており、スキルマップをこの三つの機能で使っています。この三つ目に申し上げたCNAとは「部門横断的ネットワーク活動Cross-divisionalNetworkActivityの略称でして、弊社では部門や国を越えた交流とグループ技術発展に寄与していこうということで始められました。これはスキルマップで分類されたスキル単位のプロフェッショナルクラブという位置付けです。

CNAには3つの活用目的があります。一つ目は専門領域、カテゴリーの技術を深化させていこうということ。二つ目としまして、グループ視点での問題解決で、違う部門から見るとある部門での悩みが実は簡単な解決方法があるのではないかということ。三つ目としまして、人材育成で、技術、技能を持つ人が退職されるようなときになかなか技術伝承されない、そういうことを解決しようという、というものです。また、このCNAを「AGCグループの文化にしてほしい」というのが始めた時のトップの思いです。

では、どんな風にこれがここまで来たのかということからお話しします。まず2010年にトップダウンでスキルマップ制度がスタートしました。これは何かといいますと、当時のCEOがあるプロジェクトに最適な人材がほしいので、社内にどんな人材がいるのかリストが欲しいと人事部に問い合わせがありました。その時、人事部にはその様なグループ全体の人財を網羅したようなデータがありませんでした。これはまずいということになり、その時人財を把握できるデータを集めようということで始めました。それがスキルマップになります。そして、2011年にはスキルマップで収集した情報を生かせないかということで、CNAがスタートしました。その当時のCEOのCNAをAGCの文化にしてほしいという強い思いで始まっております。新鮮味のあるうちは活発に活動できます。その時リーダーが「よし、やってやろう」という気持ちでやってくれたわけです。

ところが大体3年くらいたつとそういう活動も一通りリーダーの持っていたアイデアをやり切ってしまうとマンネリ感、やらされ感がリーダー層に徐々に出てきました。リーダーはそういう気持ちなのですが、CEOとかCFOが企画会議などに顔を出して何か成果はでたのかとか、どんなことを次にやるんだとか気になるので質問されます。そうすると、そのリーダー達はすごいプレッシャーを感じ、我々人事の事務局にもうおなか一杯だよと、これ仕事じゃないので業務評価もされないのでもうやめようよという声がたくさん出始めました。我々にそれを言われてもしようがないので、年に一回トップマネジメントとリーダーが集まる会議を開催しておりまして、その席で直接トップマネジメントに提言してもらおうということで、トップも参加しているところでグループ討議をやってもらいました。そのなかでいろいろな問題が噴出しました。やらされ感一杯であることや、ある程度の目的を達成したので止めたいという話になりました。すると、その場のCEO、CTO、CFOがほんとに驚いて、なんでそんなこと言うのと、会社がお金を出して、やりたいことをやっていい、自由に使っていいんだよって言っているのになんでやらされているというような話になるんだろうという具合でした。その時CFOがやりたくないのならやめてもらって結構、やりたいと言うのなら好きなことをやっていいんです、無理強いするつもりは全くありません、成果を求めずに人脈形成だけでも意味があるのだから、やりたい人がやりたいことだけをやってくれればいいんだという話になりました。

そこで我々としてはCNAを再定義しますということで、「成果をはじめから求めない、やりたい人がやりたいことを、自由な発想でやる活動。人脈形成が第一目的」ということを掲げました。このCNAの場を使って自分の限界を超える、そういうことを実現する仲間をみつけてくれればいいよというメッセージを出すようになりました。これで再スタートしたおかげで、いろいろな活動が活発に行われるようになりました。

2016年にはグローバル人事の会議があり、CNA活動を海外で実施してはどうかとヨーロッパのHRのリーダーに説明して、この活動を拡大していきたいという話をしたら、仕事でもなくて評価もされないのになぜこんなことをやっているのと驚かれました。言われてみればそうだと考え、次のように説明しました。会社からプロの技術者だから(この活動を)やって欲しいと言われたら、プロ(として認められたの)だからやってやろうかなと日本人のメンタリティーですね。ある分野のプロだからその領域で会社に貢献したいということでやっているということだと考えていると伝えると、なるほどCNAってプロフェッショナルクラブなんだねと言われ、それからは「プロフェッショナルクラブ」と称するようになりました。

その後しばらくは活発に活動が行われたのですが、社内でやっていることが外部の視点でどのように評価されるのか、客観的に見てもらいたいということで、ご縁があって石山先生にトップマネジメントとリーダーが集まる会議にお越しいただき、社外の目でどういうものなのかを評価してくださいとお願いしました。そうしたところ「CNAは実践共同体でありサードプレイスとしても機能している。CNAのモデルは個人の学習と組織の知識創造を両立させている」という大変高い評価を頂いてトップマネジメントも学術的に評価されるとは思ってもみなかったということで驚いておりました。我々としては今後プロフェッショナルクラブとしての活動およびサードプレイスとしてこの場の提供していく、それが実際どれくらいできているかということを測定して評価をしていこうと考えました。先ほどの石山先生の図をお借りして説明すると開始した当初は目的というより全く義務的な感じだったのが2015年から再スタートしてからは義務的なところは一切なくなり、自発的な方向に振れた、それがさらにプロフェッショナルクラブということになり、もっと完全に自発的なものに変わり、何をやってもいいというようになってきたのです。今サードプレイスという評価を頂いたので、もっと目的がなくてもできるのではないか、どのくらい裾野を広げられるのかということを検討しています。

では、実際どのような活動を行っているかをご紹介します。これは分析技術の活動で、年に一回全世界からエントリーされる「画像コンテスト」を行っています。分析で必要な写真を撮り、その写真が芸術的に優れていると思ったら応募してもらい、その中で審査員が優秀な作品を表彰します。例えば、これは画像の何かの欠点が雪が降っているように見えたので、芸術部門で表彰されました。
また別の活動では、いろんな部門やカンパニーの人が集まってガラスのバレーボールを作ろうと一年かけて技術開発をして作りました。何になるわけではないですが、これにチャレンジしたということですごく楽しそうにやって最後は徹夜までして作っていました。
次に技術交流会なのですがここではミニ展示会のようなものを行いました。ミニ展示会をすることで、通常仕事ではなかなか会うことのない別々の技術の人たちが集まって議論することで、そんなことが出来るのかと、新たな発見があったりします。こちらも技術開発について意見交換の場になりました。

次に事務系スキルの活動ですが、通常会社内でなかなか接することがない購買担当と営業の担当たちが集まりました。購買担当からは、購買パーソンの思考や、手強い営業とはどういうものか、営業担当からは、お客様の情報など、双方の立場から意見交換をする会がありました。あとは、労務総務トラブル対応研修を開催しました。通常社内でもあまりこういう系統の事例は共有されていなかったようですが、これはCNAだからいいよねということで、各工場での事例をケーススタディで議論し、弁護士の先生も参加し、その対応は法的にどうだったのか議論を深める会になりました。
2015年からは、人と人、技術と技術をつなぐ場の提供をより推進していこうということで、オープン講座というものを始めました。これは、スキルマップ登録をしている人であればスキルを問わず誰でも参加していいですよというもので、社内に広く募集します。たとえば、ガラス工芸作家の先生に「ガラスの魅力再発見」という講演をしてもらったり、「自動運転」とか「SDGs」の講演をしてもらったりなどを行い、様々な分野から参加者が集まりました。
また、別の活動では社会貢献ということで、身体活動を補助するロボットが展示してある場所に行ってAGCが何に貢献できるかということを体験して考えたり、3Dプリンターの最先端を見に行ったり、JAXA様と技術交流会を行ったこともあります。ヤマトホールディングス様にお邪魔したこともありました。

海外との交流もすごく活発とまでは言えませんが行っております。あるCNAが年一回のグローバルシンポジウムを開催していたり、また別のCNAではグローバル技術交流会を行っておりまして、世界から6名くらい招いて技術討論を実施しました。海外での活動が中心というCNAもありまして、中国での安全会議、これは中国側が中心となって5回開催されています。そして、こちらは若手の製造関係エンジニアによる現地での勉強会です。一週間でアジア三拠点を回り、各地で丸一日教育するというものです。徹夜することをよしとしているわけではありませんが、日常業務を行いながら、英語によるテキストを徹夜で作成したり、現地では講師を担当するという、日程も内容も非常にハードなものでしたが、情熱をもって取り組んだことで、大きく成長する機会になったようです。

これはトップマネジメントの様子なのですが2017年はこんな感じでした。ちょっと固い雰囲気で怖い感じがします。ところが2018年に石山先生においでいただいた時の様子を見ますと、非常に和やかな感じでリラックスしている様子がお分かりいただけると思います。まとめとしまして、CNAの成果は参加者個人の学習です。これはCNAの過程でやることは何をやってもいいよ、失敗しても怒られないよということで参加者個人がリーダーシップの経験を積んだりできるということで、そういう場になっていると思います。また会社にとっては知識の創造ということで、そこでは通常業務では出会わない社内の開発者同士が出会って新しいイノベーションが生まれることに期待しています。

CNAはクラブ活動でありサードプレイスであり実践共同体です。組織の壁というのは責任の現れであり、無くせばよいというものではないけれどCNAはこの壁に開いた自由に行き来できる穴ですよ、専門外の領域と交流しましょうということです。制度としてのキーポイントはやはりトップのコミットメントが非常に大事で、何か尻込みする人がいたら事務局はトップがいいと言ってるんだからやりましょうと背中を押してあげる。CTO・CFOから40カテゴリーのリーダーを任命してもらっていますが、そういう人たちから(リーダーをしっかりやってほしいというような)メールを貰うとよしやろうという気になってくれるようです。スキルマップとCNAは相互依存関係にあると考えています。これはスキルマップの(ある技術領域ではどのような人材がCNAにふさわしいかの)情報が無いとCNAはなかなか成り立ちにくい、一方スキルマップに登録しようという時にはCNAがあるから登録しようかという気持ちにもなってくれる。そういうことだと考えています。

今後の課題としましては、先程も言いましたが製造系の方はなかなか参加しにくい。そうすると自ずとR&Dの人たちが推進するメンバーになるのですが、そうすると固定化されてきてしまう、固定化するとマンネリ化してきます。そうするとだんだんモチベーションが下がってきます。そうならないように新しい仕掛けを次々と考えなければならないというのが非常に大きな今後の課題です。以上が私の説明になります。どうもありがとうございました。

「サードプレイス」の主役は社員!自主性を大事に

石山
今市さんどうもありがとうございました。どうぞおかけ下さい。今市さんから非常に素晴らしいAGCさんの歴史を踏まえた変遷のわかるプレゼンを頂いたんですが、この会場では会場の方と質疑をすることはできないということで、私が皆様の代わりに、今市さんにいろいろ具体的なことを含めてお聞きしていきたいと思います。
今のプレゼンのポイントを私なりに解釈いたしますと、こういった部門横断的な活動をいろんな会社がやろうとするのは実はよくあると思うんですね、しかもそれをトップが推進してやるということもあると思いますが、先のプレゼンでお話があったようにそういう活動って往々にして一年か二年でマンネリ化したり、いろんな壁にぶつかって面倒くさいからやめてなくなってしまうということが結構あると思うんです。
ところがAGCさんはそうならなかった。これはお話にあったように3つの再定義という重要なポイントがあったからだと思います。まず2015年の再定義ということで、結局これは意図してなったわけでなくて、発展的にある意味偶然も含めて成り立っていったということですが、2015年のリーダーとトップの話し合いみたいなことで、成果は求めないでやりたいことを自発的にやって仲間を見つけてくれというふうに変わった、ということが一番の大きな再定義ですよね。これができたということが素晴らしいということですね。2番目の再定義が海外に話したということ。海外で話したら、なんでそんな変わったことをしているのと驚かれたということも面白いのですが、でも海外の皆さんには、プロが自発的に集まるのならあるよねということで納得されて、これでプロフェッショナルクラブという更なる再定義が付け加わったこと。これがまた重要だと思うんです。さらに2018年にサードプレイスということで、成果を求めない自発的にやりたい人が集まるということで、プロフェッショナルクラブであってサードプレイスというこの3つの再定義ができたことで、今の活動に至っているということが非常に重要なポイントなんじゃないかと思います。
それを踏まえてお聞きしていきたいのですが、トップの方が部門横断的な活動をやりたいと思われたということはよくわかるのですが、成果を求めないでやりたいことを自由にここまでやってもいいと思われている理由は何なのかなと、私の感覚だと他の会社と比べると少し不思議だと思うのですね。おそらくそこにはAGCさんの文化とかいろいろそういったものが関係してくると思うのですけど、この辺りは今市さんどういう風に思われますか。トップはなぜこんなに成果を求めない活動を熱心に進めていらっしゃるのでしょうか。

今市
正直申しますとトップはCNAだけにそのことを求めていないと思いますが、やはり部門間の壁ですね。さっき申し上げたようにその部門間の壁っていうのは無くしてしまえばいいよというものではないと、それは組織の責任の現れであるということを申しております。ただ、それをあまりにも強固にまじめにやろうとすればするほどその壁はドンドン強固になっていきます。だから硬直的になってしまい、こんなことは隣と話せばわかることではないかということもメールでやり取りするような文化がだんだん形成されていくと。こう言っては何ですがAGCの人間はまじめな気がしますので、それがドンドン強固になっていくので何とかしなくてはいけないということで、その一つの施策としてCNAを応援しようという気持ちがあるのだと信じております。

石山
ありがとうございます。今のお話で興味深いのは組織だから組織の壁は必要ではあるけれども、その壁を乗り越えて話をしなくてはいけない、だからこそトップの方がこの活動は重要だと認識されているということです。素晴らしいと思いますが、引き続き突っ込ませていただくと、横で交流するとなった時に、社員の人がある意味好き勝手にやりたいことを勝手にやっていくという仕組みを、わざわざ推進しなくてもいいと思うんですが、社員の方がやりたいことを自発的に勝手にやっていくというところで横串のものを実現しようというところに、AGCさんの文化というかトップの「自発的なものを取り込みたい」という考えが他より強いのではないかと思うんのですが、そういうことって思い当たられますか。

今市
そうですね。自発的な活動というのはCNAだけではなく、若手の「AGseed」といった社外と繋がる、社外に出て交流するというようなことも積極的に推進しています。そういうこともあってCNAだけではないと申し上げたのですが、その中の一つとしてCNAがあって、ただ我々事務局は仕事としてやっていますので、他の人は評価されませんが、我々は評価されますのでやはり一所懸命やります。トップが言っているからと言っても、これやっていいかどうかと躊躇するところの背中をドンと押すというところが必要なのかなという気がします。なんかこれやっちゃいけないってやはり思うんですね。これは遊びに見えちゃうかなとか。でも、そうではないですよ、、是非やってくださいと我々が言うと、人事が言っているイコールトップも言っているという風に受け取ってもらえるのかなという気がします。

石山
ありがとうございます。今、次にご質問したいポイントが出たと思うんですけれども、会社としてこれが大事だと思っているといった時に、実はこういったものが長期間続くというのはちょっと仕組みが必要だと思うんですよね。お話を聞いていますと、三位一体の仕組みが良く機能しているのではないかと私は思いました。三位一体というのは先ずトップのコミットメントがあります。そこに人事部としての事務局機能というものがあります。このトップと事務局以外にスキルマップの中でそれを整理されているスキルリーダーという方たちがいます。この三者が三位一体で三角形のような形になっているからこそ、お互いにうまくやり取りができるからではないのかなと思うのですね。そういった中で他の会社の参考にしていただくために、こういった事務局機能とそれぞれのスキルのリーダーが自由に動く、あるいはトップがそこに応援するということをやっていく時に、どのような仕組みをうまく続かせる工夫とか何かございますか。例えばスキルリーダーがもっと活発に動けるようにしようとか、ここは事務局がきちんと締めようとかなんかいろんなことがあると思うのですが。

今市
気を付けていますのは、やはり主人公は参加者やリーダーの方たちで我々人事は裏方だということを常に意識しています。ということともう一つは初期の段階でやはり企画会議でCEOが来るというのはさすがにまずいのでないかということでそこはやはり控えていてもらって会議には年に一回だけ出てきてもらう、そこがいいのかなという気がしいます。そうしないとトップがやれって言ってるからしょうがなくやるという感じになってしまうのではないかと、これは個人的な意見ですがそういう風に感じています。

石山
ありがとうございます。お時間が後5分になりましたので、これが最後の質問になるかなと思いますが、そうしましたらスキルリーダーの方たちが割とトップからのプレッシャーも受けないように自由に動かすというところを、人事として意識されているということだと思いますが、各スキルマップってスキルリーダーが一人でやっているだけではなくて、そこでもたぶんスキルリーダーを中心として事務局の方がいらっしゃって、皆さんおやりになっていると思うんですね。でもそうすると、やはり同じスキルリーダーと事務局が続いてしまうとマンネリ化する、あるいは他の人は協力してくれないのになぜ私だけがこんなにいっぱいやらなくてはいけないのかというやらされ感や負担感があったりとか、やっぱりそういう事はどうしても仕組み上起こると思うのですが、各スキルリーダーあるいはスキルマップの事務局チームがうまくそのあたりを乗り越えていくための工夫をされていることが何かあれば、ご紹介して頂ければと思います。

今市
基本的にはそのスキルにお任せという形ではあるのですが、ただやはり疲弊したりしているなと思ったらちょっと相談には乗るとかですね、あとは先ほど言われましたがやりたくなければやらなくてもいいよと言っているわけです。ですので40カテゴリーあって40のリーダーがいますがその内活発に動いているのは良くて3分の1くらいかなという感じです。ただそのよく活発に動いてしかも成果を求めないけれど成果が出ているというところは社内に広く周知していこうということでメルマガを出したりとかそこについては一所懸命やっていて、躊躇している人たちをモチベートしたり、あと勇気づけたりそういうところを我々が気を付けています。

石山
やはり40のスキルがある中で活発に動かれているのが3分の1くらいというのは、すごくわかるなと思います。3分の1でも活発に動いているというのは、実はすごいことなのではないかと思いますが、何か活発に動いている3分の1のところで、スキルリーダーとかスキルのチームに手を上げたいとおっしゃるような方たちは何か特徴とかありますか。どうして私はこれをやりたいって手をあげたりするのか、どういうような動機でその方たちは一生懸命おやりになっているのか、何か特徴があれば教えてください。

今市
やはりリーダーはそのスキルの領域でトップの人という定義で選んでいくので誰でもって言う訳にはいかないのですが、事務局機能の方々はある程度オープンな人、何かやりたいことを持っている人そういう人たちがなってくれているなあという気はします。そういう人たちを是非助けようということで我々はそこをサポートするということでやっています。

石山
はい、ありがとうございました。まあ日本はエンゲージメントとか幸福度が、働く人の中で国際比較すると低いと言われているのですが、その原因はやりたいことっていうのを組織の中で表現するのがなかなか難しいからだと言われているんですね。そういう意味で言いますと、今のお話にありました通りCNAっていう活動に、私はやりたいという手を挙げられる文化っていうのが、AGCさんで活発に根付かれているのが素晴らしいことだと思いました。ということで大変短い時間でしたが、非常に有益なしかも珍しい事例を紹介して頂いた今市さんに皆さん拍手をお送り頂ければと思います。今市さんどうもありがとうございました。

今市
ありがとうございました。


講演者プロフィール

法政大学大学院 政策創造研究科教授
石山 恒貴 様
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、 法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。 一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境学習、キャリア、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長。

主な論文:Role of knowledge brokers in communities of practice in Japan, Journal of
Knowledge Management, Vol.20,No.6,2016. 
主な著書:『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』ダイヤモンド社 2018年、『越境的学習のメカニズム』福村出版 2018年、『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社 2015年、『組織内専門人材のキャリアと学習』生産性労働情報センタ- 2013年、他

AGC株式会社 人事部
今市 明生 様
2015年より人事部に異動しスキルマップ制度に従事。AGCグループの部門横断的ネットワーク活動(CNA)の閉塞打破をリードし、この活動を「プロフェッショナルクラブ」、「サードプレイスの提供」などの新たな概念を取り込みつつ発展させることに尽力する。また、近年はスキルマップや適性検査情報を基にした人事情報分析を手掛ける。

※AGC株式会社の詳細はこちらからご覧下さい。