今市
石山先生どうもありがとうございます。AGC人事部の今市と申します。本日は弊社のつたない制度なのですが「社内に繋がりを生み出すサードプレイスとは~AGCの実例~」ということでご紹介させて頂きます。今日お話します事はAGCで制度として行っておりますスキルマップとCNAという活動が土台となっていますのでこれをまずお話させていただいて、そのあとCNAがいかにしてサードプレイスを獲得してきたかという歴史のようなものをお話し、最後に実際どんなことをやっているかということをお話したいと思います。
では早速ですが、まずスキルマップという制度についてです。これは何かといいますと個人の保有する技術、技能を集めてカテゴリー別に見える化したものです。会社の組織は縦割りになっており、そこに技術、技能をカテゴリー別に40のスキルとして分類し横串として通しているそういったものになります。このカテゴリー別に社員に登録をしてもらって約8,000名強が登録していますが、3つの目的に沿って活動をして使っていくということをやっています。
一つ目が計画的な採用をしていこうということで、あるカテゴリ―ではこういう人が必要だよねということで最適人材を確保していく。二番目としまして人材探索をしていく。「こういうことができる人はどこにいるの?」というのを探すときに使います。三つ目としまして今ご紹介のあったサードプレイス的な活動をしており、スキルマップをこの三つの機能で使っています。この三つ目に申し上げたCNAとは「部門横断的ネットワーク活動Cross-divisionalNetworkActivityの略称でして、弊社では部門や国を越えた交流とグループ技術発展に寄与していこうということで始められました。これはスキルマップで分類されたスキル単位のプロフェッショナルクラブという位置付けです。
CNAには3つの活用目的があります。一つ目は専門領域、カテゴリーの技術を深化させていこうということ。二つ目としまして、グループ視点での問題解決で、違う部門から見るとある部門での悩みが実は簡単な解決方法があるのではないかということ。三つ目としまして、人材育成で、技術、技能を持つ人が退職されるようなときになかなか技術伝承されない、そういうことを解決しようという、というものです。また、このCNAを「AGCグループの文化にしてほしい」というのが始めた時のトップの思いです。
では、どんな風にこれがここまで来たのかということからお話しします。まず2010年にトップダウンでスキルマップ制度がスタートしました。これは何かといいますと、当時のCEOがあるプロジェクトに最適な人材がほしいので、社内にどんな人材がいるのかリストが欲しいと人事部に問い合わせがありました。その時、人事部にはその様なグループ全体の人財を網羅したようなデータがありませんでした。これはまずいということになり、その時人財を把握できるデータを集めようということで始めました。それがスキルマップになります。そして、2011年にはスキルマップで収集した情報を生かせないかということで、CNAがスタートしました。その当時のCEOのCNAをAGCの文化にしてほしいという強い思いで始まっております。新鮮味のあるうちは活発に活動できます。その時リーダーが「よし、やってやろう」という気持ちでやってくれたわけです。
ところが大体3年くらいたつとそういう活動も一通りリーダーの持っていたアイデアをやり切ってしまうとマンネリ感、やらされ感がリーダー層に徐々に出てきました。リーダーはそういう気持ちなのですが、CEOとかCFOが企画会議などに顔を出して何か成果はでたのかとか、どんなことを次にやるんだとか気になるので質問されます。そうすると、そのリーダー達はすごいプレッシャーを感じ、我々人事の事務局にもうおなか一杯だよと、これ仕事じゃないので業務評価もされないのでもうやめようよという声がたくさん出始めました。我々にそれを言われてもしようがないので、年に一回トップマネジメントとリーダーが集まる会議を開催しておりまして、その席で直接トップマネジメントに提言してもらおうということで、トップも参加しているところでグループ討議をやってもらいました。そのなかでいろいろな問題が噴出しました。やらされ感一杯であることや、ある程度の目的を達成したので止めたいという話になりました。すると、その場のCEO、CTO、CFOがほんとに驚いて、なんでそんなこと言うのと、会社がお金を出して、やりたいことをやっていい、自由に使っていいんだよって言っているのになんでやらされているというような話になるんだろうという具合でした。その時CFOがやりたくないのならやめてもらって結構、やりたいと言うのなら好きなことをやっていいんです、無理強いするつもりは全くありません、成果を求めずに人脈形成だけでも意味があるのだから、やりたい人がやりたいことだけをやってくれればいいんだという話になりました。
そこで我々としてはCNAを再定義しますということで、「成果をはじめから求めない、やりたい人がやりたいことを、自由な発想でやる活動。人脈形成が第一目的」ということを掲げました。このCNAの場を使って自分の限界を超える、そういうことを実現する仲間をみつけてくれればいいよというメッセージを出すようになりました。これで再スタートしたおかげで、いろいろな活動が活発に行われるようになりました。
2016年にはグローバル人事の会議があり、CNA活動を海外で実施してはどうかとヨーロッパのHRのリーダーに説明して、この活動を拡大していきたいという話をしたら、仕事でもなくて評価もされないのになぜこんなことをやっているのと驚かれました。言われてみればそうだと考え、次のように説明しました。会社からプロの技術者だから(この活動を)やって欲しいと言われたら、プロ(として認められたの)だからやってやろうかなと日本人のメンタリティーですね。ある分野のプロだからその領域で会社に貢献したいということでやっているということだと考えていると伝えると、なるほどCNAってプロフェッショナルクラブなんだねと言われ、それからは「プロフェッショナルクラブ」と称するようになりました。
その後しばらくは活発に活動が行われたのですが、社内でやっていることが外部の視点でどのように評価されるのか、客観的に見てもらいたいということで、ご縁があって石山先生にトップマネジメントとリーダーが集まる会議にお越しいただき、社外の目でどういうものなのかを評価してくださいとお願いしました。そうしたところ「CNAは実践共同体でありサードプレイスとしても機能している。CNAのモデルは個人の学習と組織の知識創造を両立させている」という大変高い評価を頂いてトップマネジメントも学術的に評価されるとは思ってもみなかったということで驚いておりました。我々としては今後プロフェッショナルクラブとしての活動およびサードプレイスとしてこの場の提供していく、それが実際どれくらいできているかということを測定して評価をしていこうと考えました。先ほどの石山先生の図をお借りして説明すると開始した当初は目的というより全く義務的な感じだったのが2015年から再スタートしてからは義務的なところは一切なくなり、自発的な方向に振れた、それがさらにプロフェッショナルクラブということになり、もっと完全に自発的なものに変わり、何をやってもいいというようになってきたのです。今サードプレイスという評価を頂いたので、もっと目的がなくてもできるのではないか、どのくらい裾野を広げられるのかということを検討しています。
では、実際どのような活動を行っているかをご紹介します。これは分析技術の活動で、年に一回全世界からエントリーされる「画像コンテスト」を行っています。分析で必要な写真を撮り、その写真が芸術的に優れていると思ったら応募してもらい、その中で審査員が優秀な作品を表彰します。例えば、これは画像の何かの欠点が雪が降っているように見えたので、芸術部門で表彰されました。
また別の活動では、いろんな部門やカンパニーの人が集まってガラスのバレーボールを作ろうと一年かけて技術開発をして作りました。何になるわけではないですが、これにチャレンジしたということですごく楽しそうにやって最後は徹夜までして作っていました。
次に技術交流会なのですがここではミニ展示会のようなものを行いました。ミニ展示会をすることで、通常仕事ではなかなか会うことのない別々の技術の人たちが集まって議論することで、そんなことが出来るのかと、新たな発見があったりします。こちらも技術開発について意見交換の場になりました。
次に事務系スキルの活動ですが、通常会社内でなかなか接することがない購買担当と営業の担当たちが集まりました。購買担当からは、購買パーソンの思考や、手強い営業とはどういうものか、営業担当からは、お客様の情報など、双方の立場から意見交換をする会がありました。あとは、労務総務トラブル対応研修を開催しました。通常社内でもあまりこういう系統の事例は共有されていなかったようですが、これはCNAだからいいよねということで、各工場での事例をケーススタディで議論し、弁護士の先生も参加し、その対応は法的にどうだったのか議論を深める会になりました。
2015年からは、人と人、技術と技術をつなぐ場の提供をより推進していこうということで、オープン講座というものを始めました。これは、スキルマップ登録をしている人であればスキルを問わず誰でも参加していいですよというもので、社内に広く募集します。たとえば、ガラス工芸作家の先生に「ガラスの魅力再発見」という講演をしてもらったり、「自動運転」とか「SDGs」の講演をしてもらったりなどを行い、様々な分野から参加者が集まりました。
また、別の活動では社会貢献ということで、身体活動を補助するロボットが展示してある場所に行ってAGCが何に貢献できるかということを体験して考えたり、3Dプリンターの最先端を見に行ったり、JAXA様と技術交流会を行ったこともあります。ヤマトホールディングス様にお邪魔したこともありました。
海外との交流もすごく活発とまでは言えませんが行っております。あるCNAが年一回のグローバルシンポジウムを開催していたり、また別のCNAではグローバル技術交流会を行っておりまして、世界から6名くらい招いて技術討論を実施しました。海外での活動が中心というCNAもありまして、中国での安全会議、これは中国側が中心となって5回開催されています。そして、こちらは若手の製造関係エンジニアによる現地での勉強会です。一週間でアジア三拠点を回り、各地で丸一日教育するというものです。徹夜することをよしとしているわけではありませんが、日常業務を行いながら、英語によるテキストを徹夜で作成したり、現地では講師を担当するという、日程も内容も非常にハードなものでしたが、情熱をもって取り組んだことで、大きく成長する機会になったようです。
これはトップマネジメントの様子なのですが2017年はこんな感じでした。ちょっと固い雰囲気で怖い感じがします。ところが2018年に石山先生においでいただいた時の様子を見ますと、非常に和やかな感じでリラックスしている様子がお分かりいただけると思います。まとめとしまして、CNAの成果は参加者個人の学習です。これはCNAの過程でやることは何をやってもいいよ、失敗しても怒られないよということで参加者個人がリーダーシップの経験を積んだりできるということで、そういう場になっていると思います。また会社にとっては知識の創造ということで、そこでは通常業務では出会わない社内の開発者同士が出会って新しいイノベーションが生まれることに期待しています。
CNAはクラブ活動でありサードプレイスであり実践共同体です。組織の壁というのは責任の現れであり、無くせばよいというものではないけれどCNAはこの壁に開いた自由に行き来できる穴ですよ、専門外の領域と交流しましょうということです。制度としてのキーポイントはやはりトップのコミットメントが非常に大事で、何か尻込みする人がいたら事務局はトップがいいと言ってるんだからやりましょうと背中を押してあげる。CTO・CFOから40カテゴリーのリーダーを任命してもらっていますが、そういう人たちから(リーダーをしっかりやってほしいというような)メールを貰うとよしやろうという気になってくれるようです。スキルマップとCNAは相互依存関係にあると考えています。これはスキルマップの(ある技術領域ではどのような人材がCNAにふさわしいかの)情報が無いとCNAはなかなか成り立ちにくい、一方スキルマップに登録しようという時にはCNAがあるから登録しようかという気持ちにもなってくれる。そういうことだと考えています。
今後の課題としましては、先程も言いましたが製造系の方はなかなか参加しにくい。そうすると自ずとR&Dの人たちが推進するメンバーになるのですが、そうすると固定化されてきてしまう、固定化するとマンネリ化してきます。そうするとだんだんモチベーションが下がってきます。そうならないように新しい仕掛けを次々と考えなければならないというのが非常に大きな今後の課題です。以上が私の説明になります。どうもありがとうございました。