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【厚生労働省セミナー】
教育事業者へのナレッジ

講演録【JAMOTE】ISO29990

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企業研修の“質”を見極める
~学習サービス規格「ISO29990」の発行を踏まえて

講演者:
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会 理事 永倉正洋 様
株式会社 GABA 代表取締役社長 増田崇之 様
ヒューマンキャピタルOnline 編集長 小出由三 様
(2012年9月掲載)

平成24年7月6日(金)、東京国際フォーラムで開催された「ヒューマンキャピタル2012」で『企業研修の“質”を見極める~学習サービス規格「ISO29990」の発行を踏まえて~』と題したセミナーを開催致しました。
一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会 理事 永倉正洋 氏、株式会社 GABA代表取締役社長 増田 崇之 様、ヒューマンキャピタルOnline 編集長 小出由三 様による、セミナーおよびパネルディスカッションの模様をお伝えいたします。

※セミナーで使用した資料はこちらです。
ヒューマンキャピタル2012スライド.pdf

学習サービスの国際規格「ISO29990」の誕生

永倉 「ISO29990」の名称は、『非公式教育・訓練における学習サービス ー サービス事業者向け基本的要求事項』となっています。
公式教育とは、少し乱暴な言い方をいたしますと、文科省の教育基本法、小学校・中学校・高校・大学のことで、それ以外は非公式教育となります。
たとえば、大学での一般市民講座の場合は、非公式教育となり、事業研修や、学習塾、英会話なども非公式教育です。

「ISO29990」は、“サービス事業者向け基本的要求事項”ということで、学習サービスの提供側が主役になりますが、利用側にとっても非常に重要な規格といえます。

この国際規格の範囲・目的は、学習サービスを提供する事業者に学習サービスの計画、開発、提供に関する共通の基準と、学習サービス実施のための包括的な質保証のモデルを提供することです。
ただし、ISOという国際規格は、サービスを提供する事業者だけではなく、サービスの利用者、さらにそれらを含む社会全体に関わるものであり、その普及は市場原理に委ねられています。

学習サービスへの期待の変化、価値観・就業観・労働観の多様化などにより、学習サービスの質担保がとても重要になってきています。
さらにグローバル化に代表される環境の変化、人材の流動化など、いろいろな学習サービスへの変化に対して取り組んでいかなければなりません。
このような背景のもと、学習サービスの国際規格「ISO29990」が誕生しました。

学習サービスの質担保について

永倉 学習サービスは、教室・先生・生徒・テキスト・教材などは目に見えますが、サービスの実体は提供される瞬間でしかわかりません。
保存したり返品したりすることができません。また、選ぶときに物として確かめることもできません。

さらに、重要になるのは、サービスを受ける側の事情によって求められる質担保のレベルや内容が異なってくることです。

学習サービスの質の評価は、サービスの利用者の数だけ存在することになります。
たとえば、40人集まった研修所では40通りの動機がありますので、アンケートをとってみても全員が満足していることはなかなかありません。
それは必ずしも学習サービスの質が悪いわけではなく、動機が高い人からみると少し物足りなかったが、動機が少し低い人からみると非常に満足のいく内容だったということになります。

ですから、事前には見えない学習サービスで学習動機と提供サービスを合致出来るように学習サービス事業者が適切な「有言実行」をいかに実践できるのかが重要になり、この辺りが学習サービスの質向上の基礎的要件になってくるというわけです。

「ISO29990」で定められている基本的な要求事項は、この提供する学習サービスを事前に「有言」として適切に見せられるということと、それを確実に「実行」できるという原点の共通指標を提供していることであるとも言えます。

第三者の質担保の認証を受けるということ

永倉 学習サービス質担保の取組は、学習サービス事業者(第一者)が、まず、自ら内部監査を行うことが基本です。
そして、学習サービス利用者(第二者)が事業者を選択するということは、学習サービス事業者の内部監査も含めた質をある意味認めたということになります。

ただ、内部監査だけで信用できるか、という疑念も当然残るわけで、その対処として第三者による認証というスキームが存在します。
ですから、学習利用者(第二者)からすると、認証機関(第三者)の質担保の認証を受けている学習サービス事業者(第一者)ということは、信用の軸が一つできるということになります。

今回のISOの発行を踏まえ、厚生労働省は昨年12月、公的な職業訓練の委託先である民間の教育訓練機関の質が高まるようにガイドラインを発行しています。
実は、これは、かなり「ISO29990」の要求事項を踏まえたものになっています。

さらに、文部科学省におきましても、先ほど非公式訓練の範疇にありました専修学校などで、質および国際通用性を向上するために、質の向上・保証を担う人材を育成するための養成プランというものを開発し、運用を開始しているという動きも出てきています。

なぜISO29990を取得したのか

 増田様はGABAの前にニチイ学館にいらして「ISO29990」を取得されました。
なぜ取得しようとされたのか、また、取得過程で感じたことについてお伺いしたいのですが。

増田 「ISO29990」は、我々学習サービス事業者にとっても、とても興味深いものです。
それを証拠に学習サービス事業者の主要6団体が「ISO29990」の発行を受け、サービスの質の問題について業界の横の連携をはかる意味で学習サービス事業者団体連絡協議会を結成しました。

ニチイ学館が、なぜISOを取得したのかといいますと、理由は3つあります。

1つは教育産業のサービスの質を上げるということ。
本物しか売れない時代が来ていることを各事業者が気付き始めています。

2つ目は、顧客ニーズが非常に多様化していること。
今までは資格一辺倒だったのが、より実践的なニーズに即したものになってきています。

3つ目は、グローバル化への対応。
もともとニチイ学館は、グローバル化とは対極にある会社で、医療や介護といういわゆる国内の社会保障サービスを担う会社なのですが、グローバル化の波はここにも来ています。

「ISO29990」の取得過程で感じたことですが、個人的な見解になりますが、教育事業者というのは職人的なのですね。
ともすれば、学習者目線ではなく、教える側の目線に立ってしまう所があります。
そういう意味で、ISOの実際の要求事項を一つひとつ確認していった時に、この辺りが抜けていたとかこの辺りが弱かった、ということに気付かされた所があります。

- 
永倉様、増田様のお話をお伺いして、何か補足説明がありましたらお願いします。

永倉 冒頭の説明でも少し触れましたが、今の増田さんのお話を伺って、サービスというものの難しさを改めて感じました。
品質マネジメントシステムの規格である「ISO9001」では、不良品を製造しないということだけではなく、万一不良品が作られたとしてもそれが市場に出ない仕掛けも含めて考えられています。

ところが、サービスというものは、作った時点で市場に出ていますので、ある意味待ったなしといえます。
そういう意味では受講者の目的やこちらが提供する価値、すなわち市場の中での質担保の質とは何だろうという観点から、きちんと議論できる指標が必要になるのを非常に強く感じます。

「ISO29990」は、B to C、すなわち個人学習向けのサービスに対する規格のようにも受け取れますが、それは勘違いであると思います。
企業研修におきましては今後いろいろと出てくると思いますが、今、企業では総合的な人材が求められています。

ですから、例えば、英会話もできるけれども、話す内容のスキルも高めたいというような、複数の研修を融合して一つの研修としてやりたいみたいなことも出てくるのではないでしょうか。
一つの研修事業者ではなく、複数の研修事業者を束ねるようなものですね。
そういう時に、複数の事業者も含めた質担保のための共通の指標として使えるのではないかという気がしています。

グローバル人材の育成とISO29990の意義

- 先ほど企業の語学研修が変わってきているとおっしゃっていましたが、今、永倉さんがおっしゃられたことも含め、具体的にどのようなことが起こっているのでしょうか。

増田 グローバル化の第二章に進み出したことを実感しています。
たとえば、以前の企業からの依頼は、国際部門で働く方や赴任を予定している方を対象に研修をしてほしいといったものでしたが、今は全部署を対象にという風に変わってきています。
内容もリスニングやリーディングというインプットの次の段階、スピーキング等のアウトプット研修に力点が置かれています。
研修対象が全部署に広がってきていますので事業予算に限りがあります。
そのため、インプット能力は、主任や課長昇格の条件に入れたり、自己研鑽などに企業が一部負担をする程度に留め、研修の主なニーズは、一定のインプット作業が終わった方に対してのアウトプットの部分に変化してきています。

スピーキング能力の他にも、たとえば、eメールやインボイスを扱えるようにしてほしい、プレゼンテーションできるようにしてほしい、ディスカッションの能力を上げてほしいなど、より実践に即した内容のものが多いのが実情です。

また、最終的には国際感覚を持った国際人、すなわち、グローバルリーダーを育てたいという要望が企業にはあると思います。
グローバルリーダーを育てるには、一つの学習サービス事業者が研修するだけでは、この目標は到達できませんので、複数の学習サービス事業者および人事担当者が連携していくことが増えてくると考えています。
そのためにも、今、学習サービスの要求水準が国際的に標準化されることが求められており、ISO29990に脚光があたっているのです。

講演者プロフィール

一般社団法人 人材育成と教育サービス協議会(JAMOTE) 理事 永倉正洋 様
株式会社 GABA 代表取締役社長 増田崇之 様 (社団法人 全国産業人能力開発団体連合会 審査・認定委員長)
ヒューマンキャピタルOnline 編集長 小出由三 様