-ところで、クラス会などに出ると、イキイキしている人とそうでない人がはっきり分かれます。
私の周囲では、女性の方が転職やら留学やらアクティブに動いてイキイキしている傾向にあるのですが(笑)。
こうした違いはなぜ生まれてくるのでしょうか。
石山 やはり、キャリア形成を主体的に考えているかどうかの違いも大きいのではないでしょうか。
「キャリアの転機」の理論の中で、ブリッジスが唱えている「トランジション」の考え方があります。
この考えにおいては、何かが終わって中立圏を経て新しい何かが始まる、いわば死と再生の経験があると、人間としても発達し、幅が広がる、と考えられています。
日本型雇用の中で転機がない、あるいはあっても感じないような状況におかれていると、トランジションを得る経験がなくなってしまいます。
近年では50代になって初めて大きな転機を迎えてしまい、ようやく自分のキャリアに直面する、というケースが多いのではないでしょうか。
- 役職定年を上手く迎えられない、例えば「気分は部長の時のままで、昔の部下に接してしまう」といという話も良く伺うところです。
石山 例えば「部長の鎧」が自分の中に出来てしまうと、その鎧を外すのが難しくなるのです。
しかし、転機があれば、中立圏(ニュートラルゾーン)に来た時に内省せざるを得なくなり、鎧というものを相対化してとらえられるようになります。
つまりは「自分が何か」ということを考えるようになります。
先ほども触れた、外の話を中に伝えようとして拒絶されて嫌な思いをすることは、実は良いことなのです。
会社の中でとらえていた自分の存在について、初めて疑いが生じるわけです。
重たいと思っていた鎧が実はそうでもなかった、ということに気が付きます。
外でアウェイを経験してホームに戻ると、実はホームもただのホームではなかった、と知ることで、外だけの人間でも中だけの人間でもなくなっていくきっかけになります。
そうして初めて「それでは自分は何なのか」を真剣に考えるようになるわけですね。
- とはいえ、トランジションのお話で言えば、「死」を迎えることは受入れ難いですよね。
石山 それはそのとおりです。
何かが終わる、鎧がなくなる。
そこを経て中立圏に達すると、深く沈まなければなりません。
それは辛い通過儀礼です。
しかしそれがあるからこそ、新しい一歩を踏み出せるようになるのです。
そして、こうした再生が存在するほうが、人間の幅は広がっていきます。
外に出て得た知識やスキルを用いることで、自分としては組織にプラスなことをしているつもりなのに、マイナスに評価されたり、「あれは危険だ」と言われたりすることがあるかもしれません。
そういうことを含めて、これも人生だと理解できるようになれば良いのではないでしょうか。
- 新しい視点を入れた方が人生豊かになる、ということなんですね。
石山 とはいえ、やはり最初はイヤですよね。
外に行くと言っても新しいコミュニティになじむのは大変ですし、外で学んで帰ってくると「かぶれている」と言われますし、トランジションは死や中立圏を迎えなければいけないですし。
ただ、確かに最初は辛さを乗り越えないといけないのですが、いきなり大きな変化に取り組むよりも、まずは小さなことからクリアすることを心がけてはいかがでしょうか。
- 個人も企業も、少しずつ変化をしていくことが大切だということでしょうか。
変化といえば、昔は資格取得のためのスクールに通うのも、会社に黙って通う、という方が多かったと聞きます。
「会社を辞めるのではないか」と疑心暗鬼になられるケースも少なくなかったそうです。
今では企業側も自己啓発ということが言われるようになり、会社で宣言して学習される方も多くなっています。
石山 確かにそういうこともありましたね。社会人大学院の学生の方は、まだご苦労されている方が多いと聞きます(苦笑)。
とはいえ、労働力人口がこれからますます減っていきますので、いい人材を獲得するには、イキイキとした人が働きやすい環境を整えられるかが重要になっていくでしょう。
社外での広がりを持って活動したり学んだり、パラレルな活動をしている人たちが働きやすい社会になるといいですね。