リーママプロジェクトでは、外部要因(社会保障システムや保育環境、あるいは企業の人事制度などの問題)だけではなく、「女性の中での内面的要因もあるのでは?」との疑問点からプロジェクトを始めました。
そこで、子どもが小さい時期の就労率が上がらない内面的な理由を探るため、リーママプロジェクトを始める準備段階で「ママたちの声をまずは聞いてみよう」と、働き続けているママと離脱していったママ20人をインタビューしました。
見えてきたのは、非常に罪悪感を抱えているママが多いことと、家事や育児をコントロールしているように見えるママでも「復帰した当時はどうでしたか?」と聞くと、何かしらの壁に当たっているということです。
その壁は妊娠が分かってから小学校に上がるまでの間に大きく3回あり、ここで職場から離脱される方と乗り越える方に分かれます。そして壁に当たったときの、ママの心の持ちようや乗り越え方のノウハウが共有されていない、ということも見えてきました。
ではどんな壁があるのか、3回の壁と仕事へのモチベーションについて時系列で説明します。
第一は「復帰の壁」です。まず妊娠に気づき、出社日数も徐々に減っていく中で仕事へのモチベーションが少しずつ下がっていきます。それでも出産・育休に入った段階では「自分はこの先も働くのだろうな」と思っているので、仕事へのモチベーションはそれなりに保っています。
しかし、いざ復帰を目の前にすると、今、社会問題にもなっていますが「保育園に入れるのか?」と切羽詰まった状況になり「働くことができるのだろうか?」と、復帰への不安が出てくる。そんな時に「あなたの5年後のキャリアを教えてください」と聞かれても「私は3カ月後復帰できているかも分かりません」という諦めの状況になります。
ここが第一の「復帰の壁」です。仕事へのモチベーションが一番低下し、仕事を諦める方が出ます。
第二は「イヤイヤ期」です。育児休業が1年ちょっとくらいで終わり保育園も決まった段階で、子どもが1歳未満の時にいよいよ仕事復帰をするのですが、そのタイミングが子どもの「イヤイヤ期(第一次反抗期)」なんです。
子育て経験のある方なら分かるように、1歳から3歳くらいまでの子どもは「イヤダ!保育園に行かない、ママも嫌、すべてイヤ〜」と言い出す。家に帰ったら、心から愛おしいけど、どう対処したらいいのか分からない悪魔みたいのが待っているんです。
その一方で、ママは今まで10時間でやっていた勤務を、時短で5時間、6時間と時間を押し込めて仕事をしています。
そうした状況の中でも、特に優秀で真面目なママほど仕事の成果を求めようとするので、朝から夜中まで張り詰めた状態が続き、脳内パニックを起こします。
「さあ働こう、やっぱ辞めたい、さあ働こう、やっぱ辞めたい」と交互にくるんですね。
この時に「頑張ってください」「ワークライフバランス応援しているから。サポートできることがあったら言ってね」と周囲から励まされますが、ワークライフバランスと言われても、ワークとライフのバランスをとるのに、ライフのほうが初めての経験ではバランスなど無いと思うのです。
善意の言葉でも孤独感を感じてしまうのですね。
また旦那さんは「何を手伝おうか」と言いますが、ママは「手伝うんじゃなくって、あなたの子どもでしょ、あなたの家庭でしょ、具体的に何をしてくれるの」って思うわけです。
さらに追い打ちをかけるように「イヤイヤ」する子どもを見て、「専業主婦のお母さんならずっと子どもを見ていられるけれど、私は保育園に入れているから子どもが〝イヤイヤ〟と言うようになってしまうのだ」と自分を責めるのです。第二子なら「今は魔の2歳、次は悪魔の3歳ね」とやり過ごせますが、新米ママには余裕がありません。
働くモチベーションがぐっと下がり、ここでも離脱する方が出ます。
そして第三は「小1の壁」です。PTAや放課後保育(学童)などの問題が新たに出てくるのです。
そうしたお話をうかがって感じたことは、初めての経験がママを襲うのであれば、先輩ママからそれに負けないノウハウを学んでいけば良いのでは、ということ。
でも、中学や高校に通うお子さんをもつママにその当時の子育てのことを聞くと、「どうだったかしら?」と一瞬考え込むんですね。
次から次へとくる問題をこなしているので、前にあったことを忘れちゃう。
でも、こちらが話を少し仕向けると、「あそうそう、そんなこともあったわね」と聞き出せることが分かりました。
そうしたお話を聞きながら、「お母さんの知恵って重要だ」と思い、私たちが行き着いたのが「糧(かて)ことば」でした。
仕事のモチベーションを高くもっているママには、何かの心の支えになっている自分の人生の指針となるような「糧ことば」が存在していたのが見えてきたのです。